The Reader (Blu-ray) (2008)
(愛を読むひと）

＜作品データ＞
リージョン： ALL
制作： Weinstein Company
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital TrueHD 5.1 (English), Dolby Digital 5.1 Surround (English), Dolby Digital 5.1 Surround (French)
作品時間： 124分
画面比率： 1.85:1
CC： Yes
字幕： English, Spanish

第二次世界大戦後のドイツ。裕福な家庭に育つ15歳の少年マイケル（デヴィッド・クロス）は、ある日学校帰りに気分が悪くなり年上の女性ハンナ（ケイト・ウィンスレット）に介抱してもらう。数日後、元気になったマイケルがハンナのアパートを訪れたのをきっかけに、二人は21才の年の差を超えて肉体的に激しく愛し合うようになる。
いつも本を持ち歩いているマイケルにハンナは朗読してほしいと頼み、マイケルは彼女に様々な本を読んで聞かせるのが習慣になっていった。
しかし、ある時ハンナは突然姿を消してしまう。空っぽになったハンナのアパートを見て、マイケルはひと夏の体験が終わったことを知るのだった。

それから8年。法学生になったマイケルはナチ戦犯の裁判の傍聴席にいた。そこで被告人として出廷した女性の一人にハンナの姿を見つける。衝撃を受けたマイケルは食い入るように裁判の行方を見守るが、やがてある事実に気付く。そして重大な決断を迫られるのだが…。

ドイツ人作家ベルンハルト・シュリンクの世界的ベストセラー「朗読者」を映画化した感動のドラマ。ケイト・ウィンスレットは本作品でアカデミー賞主演女優賞、ゴールデングローブ賞助演女優賞に輝いた。少年時代のマイケルを演じたのはドイツの若手デヴィッド・クロス、中年期は「イングリッシュ・ペイシェント」のレイフ・ファインズ。また大学教授役で「ヒトラー　〜最期の１２日間〜」のブルーノ・ガンツが出演していい持ち味を出している。監督は「リトルダンサー」「めぐりあう時間たち」のスティーヴン・ダルドリー。

アメリカでは2008年12月に公開され、2009年4月には早くもDVDとBlu-rayで発売。日本では2009年6月から公開となる。

このレビューを書く前にFantasium のスタッフで作品について話していたら、みな一様に「よく分からなかった」という感想を持っていた。なぜハンナが重い刑を受けてまである事を隠し通したのか？なぜマイケルの気持ちを踏みにじるような残酷な仕打ちをしなければいけなかったのか？
そんなハンナの気持ちが分からないという困惑こそ、この映画の本質なのだろうと思う。これは壮絶な過去を隠し持った女性を生涯かけて理解しようとした男のドラマなのだ。
謎めいたハンナの行動がユダヤ人の大量虐殺に加担した過去が原因だとすれば、今の我々にはハンナの気持ちは分かりようもないだろう。しかし、人間は誰でも多かれ少なかれ表には出さない悲しみや苦しみをいつも抱えている。いま身近にいる家族や恋人の苦しみが分かるだろうか。映画ではマイケルがハンナを理解できずにいたのと同じように、今度はマイケルの娘が彼を理解できないことで苦しんでいる。
愛する人が自分にはとうてい分かりようのない心の傷を抱えている時、人はそれとどう向き合っていくのか。この映画はある残酷な悲劇を通してそれを真っ直ぐに問いかけている。そして、成長してゆく少年の目を通して法による裁きと戦争の責任を問うことで、答えを模索しているのだ。

ハンナ役で熟女ヌードを披露したケイト・ウィンスレットには大拍手を送りたい。普段は頑固で無感情だが、マイケルの朗読に涙したり笑ったりして感動を表すこともあるハンナ。そんな複雑さと美しい外見を持つ女性を演じられるのはケイト・ウィンスレットをおいてほかにはいなかっただろう。Blu-rayで観たケイト・ウィンスレットは本当に素晴らしかった。セリフが少ない分、表情が多くを語っているため彼女がアップになるカットではまばたきもせずその表情を追いかけたが、Blu-rayのほぼ完璧に近い画質で堪能することができた。「レボリューショナリー・ロード／燃え尽きるまで」も良かったし、年を追う毎に人間味が出てきてどんどん素敵になってゆく女優の一人だろう。

どのカットにも映像美が感じられると共に、意味が込められたシネマトグラフィーも見どころの一つ。マイケルがアウシュビッツを訪ねるシーンではセリフが全く無く、その場の風景と音楽だけがすべてを物語る。言葉の行間を読み、映像の合間を読むことが求められる作品だ。それだけに家庭で鑑賞するならば、細部までクリアーに再現しているハイ・デフィニションで観たい。

ドイツが舞台なのに会話も本も英語で、その英語がドイツ語訛りというハリウッド映画のご都合主義な設定には大いに疑問があるが、そこは目をつぶるべきだろう。優れた原作を基に描いたある愛の壮大なドラマ。劇場興行成績はあまり振るわなかったが、しっかりしたクオリティでBlu-ray化されたことは嬉しい限りだ。

特典映像はすべてスタンダード映像だが、見応えたっぷりで大いに価値があるものばかりだ。すべて英語字幕が付いているので理解の助けになるだろう。
なおスタンダードDVDにも同じ特典映像が収録されている。

Deleted Scenes（41分）
いわゆる「不要になったシーン」ではない。ここに収録されている11のカットシーンはそれぞれが意味を持つエピソードで、可能ならばすべて残しておきたかったシーンばかりだろう。全部で41分もあり、なかには衝撃映像も含まれているので必見だ。これらを含めてエクステンデッド・カット版があっても不思議ではない内容だろう。

Adapting a Timeless Masterpiece（23分）
監督や主演キャストをはじめ多数のスタッフへのインタビューを含めたメイキング映像。原作者ベルンハルト・シュリンクが自分の体験を交えて語る言葉にはとてつもない重みが感じられる。ナチスが後々まで一般人に与えた影響は我々には想像しがたいものだが、それだけにこういった生きた言葉は重要なものだ。

A Conversation with David Kross & Stephen Daldry（10分）
スティーヴン・ダルドリー監督とマイケルを演じたデヴィッド・クロスへのインタビューを中心にした舞台裏映像。

Kate Winslet on the Art of Aging Hanna Schmitz（13分）
ケイト・ウィンスレットの特殊メイク舞台裏。メイク室内の和気あいあいとした雰囲気が伝わってくる楽しい映像。ケイト・ウィンスレットがメイク途中の異様な姿で詳細に解説してくれるのは驚きだ。

A New Voice: A Look At Composer Nico Muhly（4分）
音楽担当のニコ・ムーリーに関する舞台裏映像。美しく落ち着いた旋律を生み出したのが若い作曲家だったのはとても意外！

Coming To Grips With The Past: Production Designer Brigitte Broch (7 minutes)
プロダクション・デザイン担当のブリジット・ブロシュへのインタビュー映像を中心にした舞台裏。文化検証のためやはりドイツ人が起用されている。

Theatrical Trailer
本作の予告編。

映像は1080p/AVC MPEG-4エンコード、比率1.85:1。
ややエッジノイズが見られることを除けば完璧な高画質と言えるだろう。「見どころ」でも書いたように映像が多くを物語っているだけに、映像のディテールの役目は大きく、クリアーで詳細まで明瞭な画質はありがたい。
特に人物のクローズ・アップが鮮明で美しく、迫力がある。顔の小さなそばかすや細い髪の毛の一本もしっかり再現。複雑な役どころを演じたケイト・ウィンスレットの豊かな表情は細かいところまで明瞭に再現されており、いつもシリアスな面持ちのレイフ・ファインズは平坦な表情に見えてしまう。肌色は自然でリアル。温かみがあり豊かな色彩の再現にも優れ、背景の再現も申し分ない。
全編にグレインが見られると評しているレビューアーにいるが、グレインというほどのものではなく全く気にならなかった。

字幕は英語とスペイン語字幕を収録。

音声は、英語ドルビーTrueHD 5.1(48kHz/24-bit)、英語ドルビーデジタル5.1ch (640kbps)、フランス語ドルビーデジタル5.1ch (640kbps)を収録。
ドラマ作品なのでサラウンドや低音の活躍は限定されているが、必要な時には十分な効果を発している。何よりもケイト・ウィンスレット演じるハンナの感情に沿ったように的確で緻密な音は素晴らしい。
セリフは明瞭で聞き取りには全く問題ない。現代から過去、アパートの中から屋外、法廷から大学の講堂と、めまぐるしく変わる舞台に合わせてセリフの反響音が変化して音の空間作りがされている。ドラマ作品はこういった丁寧な音作りで臨場感とリアル感に大きな差を生み出し、無意識のうちに見る者の感情も揺さぶっていくのだろう。
美しい音楽は繊細で心地よい。