Brokeback Mountain (Widescreen) (2005)
(ブロークバック・マウンテン）

＜作品データ＞
リージョン： 1
制作： Universal
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital 5.1 Surround (English), Dolby Digital 5.1 Surround (French)
作品時間： 135分
画面比率： 1.85:1
CC： No
字幕： English, Spanish, French

1963年夏。ワイオミングの山あいの牧場で季節労働に就く二人の青年がいた。無口で無愛想なイニス（ヒース・レジャー）と、快活なジャック（ジェイク・ギレンホール）。牧場主のアギーレ（ランディ・クエイド）は、イニスにキャンプの管理、ジャックには夜も羊の側を離れずに見張りをするよう言い渡していた。
イニスとジャックは、牧場で2人きりの時を過ごすうちに友達以上の感情を抱くようになり、ある寒い晩、衝撃的に一線を超えてしまう。次第に羊の世話はおろそかになり、2人で過ごす時間が長くなっていく。やがて夏が終わりに近づき、山を下りた2人はそれぞれ別の人生を歩き始めるが、その後もお互いを忘れる事はできなかった・・・。

禁断の恋に苦しむ主人公二人の二十数年にわたる純愛を中心に、人生をじっくり捉えた感動作。カウボーイの同士の恋愛という衝撃的なテーマが注目されたが、同性愛を純粋なラブストーリーとして描いた画期的な作品でもある。2005年ゴールデン・グローブのドラマ部門で作品賞に輝いた。また、アン・リー監督は本作でアカデミー監督賞を受賞している。

「ブロークバック・マウンテン」米国盤DVDは、2006年4月4日、フルスクリーン盤、ワイドスクリーン盤が同時発売となった。アメリカ中西部の壮大な大自然を背景に、対照的な2人の主人公を大胆に捉えたカメラワークのインパクトが強い作品なだけに、フルスクリーンとワイドスクリーンでは画面がどのように違ってくるのかは興味深いところ。また米国盤ではフルスクリーン盤がワイドスクリーン盤と同時発売されることは珍しくないが、日本ではフルスクリーンの収録はかなり稀である。そこで今回はフル/ワイド比較を行った。

映画作品の多くは35mmフィルムで撮影されているが、劇場公開する際にはフィルムの上下部分をマスキングし、1.85:1比率などで映写される。これと同じ画面比率がワイドスクリーン盤だ。フルスクリーン盤は、一度そのマスキング部分を取り去り、標準テレビ比率である1.33:1に変換したと考えると分かりやすい。（＊注）

「フルスクリーン盤はワイドスクリーン盤の左右をカットしてしまったもの」という考えが全く間違っていることは、「ブロークバック・マウンテン」のような作品では一目瞭然だ。実際にはカットされている左右の部分がそれほど多くはない一方、画面の上下、特に下の部分がワイドよりもかなり多く映っている。

その結果、フルではアップのシーンの圧迫感が薄れ、少し距離を置くような心理効果がある。引きの画面では、画面下方は観客から見ると手前部分に当たるので、奥行きが深まりより遠近感が増す。また、ワイドでは切れてしまっていた演技がフルでは映っているシーンも見られる。

例えば、キャンプ管理と羊の世話の役割を交代する話をしているシーンでは、ワイドではほとんど映っていないイニスの手の動きがフルでは映っている。2人が話をしている最中、イニスがせっせと肉を焼いてるのだが、ワイドではフライパンが切れてしまっているので単に調理をしている雰囲気のみ。フルではフライパンやその上の肉まで見えており、動きの少ないこのシーンではイニスの手に視線が行くので、食事の支度に忙しいなかでジャックの愚痴を聞いているイニスの演技がより明確だ。また、フルでは見えている火の側の缶詰やポットもワイドでは完全にカットされている。




また、ベッドで寄り添って話をしているシーンでは、ワイドではイニスの結婚指輪が映っていないがフルでは映っている。この指輪が見えているかいないかで、視覚的にも心理的にも効果の違いは大きい。画面の多くを占める肌色の中で、イニスの指輪とジャックの指輪が対称を成して巧みな視覚ポイントを作っている。イニスの手がこれだけ手前に位置していると目に付かずにはいられないものだし、この指輪があることで家庭のある男同士の悲恋を表すことにもなる。




ほかにも、映画の終盤、「秋までは休みが取れない」とイニスが言った事で2人が口論になる場面でも、手を腰に当てながらイニスの話を聞くジャックのポーズが、ワイドでは腕の半分ほどで切れているが、フルではもっと下の方まで映っている分だけジャックのいらだちが上半身全体から出ているような効果がある。

ワイドでは映っていない部分がフルでは見えているシーンは、これ以外にも多数あるのでファンには是非そういった点も注目して欲しいところだ。

一方、一見して気がつくほどのものではないが、厳密にはワイドの方は全体にズームされている分だけすべてのものが大きく映っている。さらには、画面いっぱいに人物の顔が映し出されるアップのシーンでは、迫り来るようなドラマチックな演出効果が得られるのもワイドの大きな特徴だろう。

それ以上に、画面構成の芸術的センス、人物配置の美しさなどを堪能できるのは断然ワイドの方だ。イニスがジャックを後ろから抱擁するシーンの、均整が取れ隅々まで神経の行き届いたカットの美しさは疑いようがない。フルで画面左下に映っている草は見えてない方がバランスが良いし、フルは画面下が広く映っている分だけ遠目に見ている印象になる。

この作品の見どころの一つでもある、山々を捉えた大自然のカットも、ワイドの方が左右の幅がある分だけ広々とした雄大な映像になることは言うまでもないだろう。




映画マニアは一般に、「劇場公開版と同じ」という理由で無条件にワイドスクリーン盤を選びがちだが、フルスクリーン盤にしか映っていない部分があったり、フレームの違いによる異なる心理効果があるなど、フルスクリーン盤を楽しんでみるだけの理由は十分にある。単純に標準テレビモニターで観るためのものという用途を超え、アメリカにはフルスクリーン盤を好むファンも多く存在しているのだ。

（＊注）フルスクリーン盤の画面変換方法は、作品によって異なる。近年のフルスクリーン盤はこの方法を採っているものが多いが、必ずしもこの通りではない。

4つの特典映像はワイドスクリーン盤、フルスクリーン盤ともに1.33:1比率の映像。すべてキャスト、スタッフインタビューを含むメイキング関連映像。これほどの作品だからもっと多くの特典映像を期待してしまうが、一通りの内容は揃っている。実際には4つのエンディングが撮影されていたとのことなので、別エンディングの収録があればなお良かった。
特典映像も英語字幕付。

On Being a Cowboy：ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールによるカウボーイの役作りメイキング（6分）

Directing from the Heart: Ang Lee：アン・リー監督の製作舞台裏（7分）

＊ジャックがダンスをしているシーンで、モニター画面の中に四角い枠が見られるが、これがワイドスクリーンで上映する際にトリミングされるフレーム枠なので要チェック。

From Script to Screen：雑誌「The New Yorker」に掲載された原作短編を脚本化するまでのドキュメント（約11分）

Sharing the Story: The Making of Brokeback Mountain：宣伝用メイキング映像（21分）

1.33:1フルスクリーン盤、1.85:1アナモルフィック・ワイドスクリーン盤双方の画質のクオリティに違いは感じられなかった。。アメリカ西部の雄大な風景は、森や空の発色に優れ、クリーンでクリアーな高画質。特に太陽の光が差しているシーンでの、空の広がる抜けた空間はすがすがしい映像だ。人肌の温度感も程よく、ディテールの再現も良好。部分的にややエッジ感があるが、ノイズ等は一切ない。
字幕は英語、スペイン語、フランス語を収録。

フルスクリーン盤、ワイドスクリーン盤どちらもサウンドトラックは全く同じ。英語5.1ch音声は、多くのシーンでセリフ中心。言葉は明瞭だが、強い西部アクセントでぼそぼそと話すヒース・レジャーのセリフはアメリカ人にとっても聞き取り困難なところがあり、これは音声クオリティーの問題ではないため英語字幕を活用するしかないだろう。雷雨のシーンや、銃声が響くシーンでははっとするようなサラウンド効果がある。グスターボ・サンタオラヤのスローな音楽がまっすぐに響いてくる良質なサウンドトラック。
音声はほかにフランス語5.1chを収録。