Angel Guts
(女高生　天使のはらわた / 天使のはらわた　赤い教室 / 天使のはらわた　名美 / 天使のはらわた　赤い淫画 / 天使のはらわた　赤い眩暈）

＜作品データ＞
リージョン： 1
制作： Rykodisc
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital 5.1 Surround (Japanese)
作品時間： 536分
画面比率： 1.85:1
CC： No
字幕： English

"High School Co-Ed" (1978, 女高生　天使のはらわた)
オートバイを走り回す三人の不良少年たちに目を付けられた女子高生・名美（深水三章）は、少年同士のいさかいに巻き込まれ、彼らの身勝手な衝動にもてあそばれてしまう・・・。監督は曽根中生。脚本は深水龍作と池田敏春。

"Red Classroom" (1979, 天使のはらわた　赤い教室)
ポルノ雑誌編集者・村木（蟹江敬三）は、一本のブルーフィルムに出演していた女性が忘れられず、ラブホテルの受付嬢になっていた名美（水原ゆう紀）を探し出す。堕ちて行く女と、女を救いたくても救えない男の切ないドラマ。「名美と村木」コンビの村木は本作から登場。曽根中生監督。これ以降、原作の石井隆が脚本も担当。

"Nami" (1979, 天使のはらわた　名美)
週刊誌記者の名美（鹿沼えり）は、性犯罪の被害者となった女性たちを取材しているうちに、エロ雑誌記者の村木（地井武男）と知り合う。村木には、妻が強姦された上に男と共に駆け落ちされたというつらい過去があった。田中登監督。

"Red Porno" (1981, 天使のはらわた　赤い淫画)
デパートガールの名美（泉じゅん）は、ビニ本のモデルとなったことが会社に知れて退職に追い込まれるが、ビニ本で名美に魅せられた村木（阿部雅彦）が現れ、名美は村木にすべてを託そうと決める。池田敏春監督。

"Red Vertigo" (1988, 天使のはらわた　赤い眩暈)
夜勤中に患者から襲われそうになった看護婦の名美（桂木麻也子）は、何とか逃げのびてマンションに帰るが、そこでは恋人のカメラマンが他の女性を連れ込んでいた。部屋を飛び出した名美を村木（竹中直人）が車ではねてしまい、村木は名美を車に乗せて連れ去る。原作の石井隆がメガホンを取った監督デビュー作。

日活ロマンポルノ「天使のはらわた」シリーズ5作品を、日本のカルト作品を中心にリリースしているArtsmagicが "Angel Guts" と題したボックスセットでリリース。石井隆の原作コミックを映画化した同シリーズは、数ある日活ロマンポルノの中でも名作の一つであり、日本映画にとって重要な才能を生み出した作品群でもある。後に「ヌードの夜」や「GONIN」を撮った石井隆が、シリーズ5作目で監督デビューを果たしている。

日活ロマンポルノと言えば男女の性愛が描かれているものだが（＊注）、このシリーズは女性への性暴力を共通テーマに据え、名美という女性を主人公にそれぞれ異なるドラマを描いたものだ。そのあからさまな性暴力描写は、アメリカの視聴者や批評家には極めて衝撃的に捉えられている。アメリカでは拒絶反応さえ示すレビューアーまでいる一方で、日本ですら発売されていないシリーズをボックス化して一挙発売してしまう懐の深さは日本映画ファンとしては大いに評価したい。音声を5.1chにリマスターし、アメリカの視聴者にも理解できるようにと日活ロマンポルノの歴史から始まる詳細なオーディオ・コメンタリー、さらにはこのDVDのために撮られた関係者へのロング・インタビューを収録したメーカーの強い意気込みも感じられる。特典映像の一つに日本版VHSのジャケット写真があるが、ジャケットのタイトル文字や裏側に印刷されている解説部分の英語翻訳まで付いているマニアック度もすごい。

映画はシリーズすべてが傑作とは言いがたいが、いずれの作品でも主演女優の隠微な美しさを捕らえるライティングやカメラワークの中に単なる成人映画の粋を超えていると思わせるものもある。また一番の見どころは、時代を反映した日本的なメロドラマ、日活ロマンポルノ的な男女の情念と性愛だろう。シリーズ最高傑作と言われる「天使のはらわた 赤い教室」では、性に溺れて堕ちてゆく名美と、彼女を救いたくても救えない男の純情さをじっとりと描いている。同作品だけでも一見の価値あり。「天使のはらわた　名美」では、追いつめられる主演女優・鹿沼えりの知性から狂気への変貌ぶりと先が見えない後半の展開が見事。猥褻をとことん突き詰めた「天使のはらわた　赤い淫画」は、泉じゅんが素晴らしいの一言だろう。

（＊注）日活公式サイトによると、「日活ロマンポルノ」とは、1971年にスタートし、男女にとって普遍のテーマである「性愛」を追求し、自由奔放な映画表現を構築してきた世界にも類を見ない映画群。1988年に終了するまで1100本以上の傑作・名作・話題作を生み出すと同時に、後の日本映画を代表する監督、スタッフ、俳優を数多く輩出した。

5作品すべてに収録されている特典は、日本映画専門非営利サイト「Midnight Eye」のエディター、ジャスパー・シャープ氏によるオーディオ・コメンタリー、日本版VHSのジャケット写真、シリーズ5作品の予告編、監督・主演キャストの略歴（英文）。

各ディスクにはその他にも以下のインタビューが収録されている。

"High School Co-Ed" (1978, 女高生　天使のはらわた)
脚本/助監督を務めた池田敏春が英語交じりで語る曽根中生監督の世界、原作の石井隆インタビューの2本のインタビュー映像（日本語音声、英語字幕）。

"Red Classroom" (1979, 天使のはらわた　赤い教室)
石井隆が語る曽根中生監督の世界、石井隆インタビューの2本のインタビュー映像（日本語音声、英語字幕）。

"Nami" (1979, 天使のはらわた　名美)
田中登監督へのインタビュー映像（日本語音声、英語字幕）。

"Red Porno" (1981, 天使のはらわた　赤い淫画)
池田敏春監督へのインタビュー映像（日本語音声、英語字幕）。

"Red Vertigo" (1988, 天使のはらわた　赤い眩暈)
石井隆監督へのインタビュー映像（日本語音声、英語字幕）。

5作品ともアナモルフィック・ワイドスクリーン仕様。多少のフィルムの傷、ややデジタルエッジ感のあるカットを除けば、全体として非常に良好な仕上がり。70年代調の色褪せた感じのカラーが懐かしい。ディティールの甘さや黒ツブレもあるが、これはオリジナルフィルムがそうなっているのだろう。英語字幕（ON/OFF切り替え可能）収録。

5作品とも日本語モノラル音声と5.1ch音声を収録。5.1chの音声の方は確かに音響空間に広がりが出ているが、もともとドラマ仕立ての古い作品なので5.1chの効果はあまり感じられない。それでも少しでも優れた音声を、という配慮は嬉しい限りだ。