Eurotrip: Unrated Widescreen Edition (2004)
(ユーロトリップ）

＜作品データ＞
リージョン： 1
制作： DreamWorks
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital 5.1 Surround (English)
作品時間： 92分
画面比率： 1.85:1
CC： Yes
字幕： English,Spanish,French

高校3年生のスコット(スコット・メクロウィズ)は卒業式の当日、美人だが超ワガママで自分勝手な彼女から一方的にフラれてしまう。更に悪いことには、友人クーパー(ジェイコブ・ピッツ)のでたらめな助言を信じ、長い間Eメール文通を続けてきたドイツ在住のマイクが夏休みに会いたいとの発言したのを、ネット上で若い男を狙う変態ホモ男の誘いと勘違いして罵詈雑言を叩きつけてしまう。翌朝、こまっしゃくれた弟から聴かされたのは、ドイツ人の名前 Mieke は男性名のマイクではなく、女性の名前ミカだという事実。長年の文通で互いに心を通わせたミカに失言を謝り信頼と関係を取り戻したいと思うものの、スコットからの Eメールは受信拒否設定されていてミカの元にはもう届かない。居ても立ってもいられなくなったスコットはミカに一目会うための欧州旅行敢行を決意。本場欧州の変態SEXへの期待をフツフツとたぎらせる悪友クーパーと共に格安航空チケットでヨーロッパへと飛び立った二人は、元クラスメートの観光オタクの兄ジェイミー(トラヴィス・ウィスター)と、さばけた性格からまったく女扱いされない妹ジェニー(ミシェル・トラクテンバーグ)の双子と、フランスはパリで偶然合流。スコットの一途な思いに共感した双子も加わり、性格も目的も趣味も異なるアメリカ人の若者4人1組の、ドイツ・ベルリンを目指す欧州旅行が始まるのだが…

世間知らずで向こう見ずなアメリカ人の若者男女4人が欧州各国を旅するロードムービー。サッカー・フリークの英国人フーリガン、東欧で異常に強い米ドル、フランスのヌーディスト・ビーチ、アムステルダムの大麻入りクッキー、と定番のステレオタイプ的なネタを次々に繰り出すストレートなどたばたコメディ。大ヒットTVコメディ「Seinfeld (となりのサインフェルド)」など多彩なジャンルで活躍するジェフ・シェイファー、アレック・バーグ、デヴィッド・マンデルのベテラン3人による共同脚本執筆＆演出で、便宜上ジェフの名が監督としてクレジットされている。タイトルの「ユーロトリップ」は「Road Trip (ロード・トリップ)」(2000年、トッド・フィリップス監督、出演ブレッキン・メイヤー、ショーン・ウィリアム・スコット、トム・グリーン他)のスマッシュ・ヒットにあやかっての命名だそうだが、2編の間にストーリーや出演者のつながりがあるわけではないようだ。

ジム・キャリーやアダム・サンドラーと言ったコメディ界の大御所が出演しているわけでもなく、米国での興行成績もパッとしなかった地味な本作だが、コメディ映画ファンにこのDVDをお勧めしたい理由がいくつかある。まず第1に挙げたい理由は、多彩で豪華なカメオ出演者のソリッドな演技の切れだ。主人公4人こそ目立たないチープなキャスティングだが(唯一双子の妹役ミシェル・トラクテンバーグのみがTVシリーズ「Buffy The Vampire Slayer (バフィー〜恋する十字架〜)」で有名か?)、主演4人からは想像できない豪華な客演者が次々に顔を出す。スコットをけんもほろろに振る彼女フィオナを演じるのはTVシリーズ「Smallville (ヤングスーパーマン )」で可憐なラナ役で大人気のクリスティン・クローク嬢。その彼女が隠れて浮気を続けていたお相手のバンド・ボーカルは意表を付くパンク風貌のマット・デイモン。ヴィニー・ジョーンズがまぶたでビール瓶の王冠を開けるフーリガンの怪物リーダーを演じれば、アムステルダムの猫屋敷と化したユース・ホステルで「盗まれたくない物はケツの穴に隠せ」などとむちゃを言う受付嬢を演じるのはTVコメディ「ファブ・アブ」のパッツィことジョアナ・ラムリー女史。またコメディ映画を成立させるのに必要不可欠な、ギャグのネタの鋭さも高レベルだ。大戦時の独国独裁者ネタなどぎりぎりまで責める際どい物から、パワーでぐいぐい押すアメリカンに大味な物まで、多彩で華麗なネタのオンパレードは満足できるボリューム感がある。また「クリーピー・イタリアン」(別名トレイン・ホモ)等、キャラクターの立ち具合もいい感じで、コメディの基本をきっちり抑えた丁寧な演出にも納得できる。
しかしながらこのDVDを推薦する最大理由は、映画作品自体ではなく、特典に含まれる製作者による情報たっぷりの音声コメンタリの存在だ。カメラを回しコメディアンに自由に芸をさせても決して面白いコメディ映画には成り得ない、というのは自明の理だが、このDVDディスクに収録されているクリエータ達の音声解説を視聴すると映画を映画として成立させるのがいかに難しいかを改めて認識することは必至だ。各シーンを執筆するきっかけとなったいきさつから、狭いコンパートメントでの撮影苦労話、話の流れを作る為にいかにシーンをカットしたかの編集秘話や、スクリーニングの結果からエンディングを差し替えたという最終調整まで、脚本・演出を共同でこなした3人が映画製作の初期段階から最終段階までを幅広く解説する音声コメンタリは、誰もが納得する情報量の多さと質の高さに圧倒される。ロケ予算低減の武器となるCGの使い方から、画面の隅に置かれる商品の法的処理まで、現代ハリウッド映画製作にまつわる多彩な話題の豊かさには思わず引き込まれずにはいられない。映画本編で失敗している箇所も少なくないが、その失敗箇所が逆に中堅映画製作者の音声コメンタリによって格好の映画製作の教科書に生まれ変わっている本DVD、コメディ映画ファンのみならず一般映画ファンも基礎教養を補強する意味でぜひ一見ならず一聴して欲しい内容だ。

Main Menu には、1) Play move、2) Scene Index、3) Setup、4) Special features の４つのサブメニューが設けられており、さらにSpecial Feature からは1)Commentaries、2) Gag Reel、3) Deleted Scenes、4) Alternate Ending、5) Nude Scene Index、6) Unrated Scene Index、7) Nude Beach Exposedを呼び出せる。量、質とも標準以上で、収録内容については充実ぶりに不満はない。ただメニュー画面のレイアウトは、良く言えば明るく元気のあるポップな構成、悪く言えば直感的でなくやや見通しが悪い。飛行機の安全パンフレットを模した映画本編のオープニング・クレジット・ロールのセンスの良さを目にすると、DVDメニューの出来はよけい寂しく思えてしまう。Nude Scene IndexとUnrated Scene Indexとで、該当シーンに飛んだ後そのまま映画最後まで再生が続くのも、あまり親切な設計とは言いがたい。ジェフ・シェイファー、アレック・バーグ、デヴィッド・マンデルの三人による音声コメンタリは、映画製作を真面目に解説したFilmmakers' Commentaryと共に、Party Along Commentaryと名づけられたビールを飲みながらの遊び編の2本が収められている。がらりと違う2つのテイストを聞き比べるのはなかなか楽しい体験だった。

ティーン・コメディらしくダイナミック・レンジを広くとったビビットな映像を期待したのだが、全体のバランスを重視したのか発色・明暗ともごく凡庸で普通のエンコーディング。作品鑑賞を妨げる程でもないが、高品質化が著しい近年の大型作品DVDディスクに見慣れた目にはやや物足りなさも感じる。字幕はEnglish、French、Spanishの3ヶ国語が収録され、クローズド・キャプションも含まれるのは親切。

映画本編には、English 5.1 Dolby Digital、English 2.0 Dolby Digital、French 5.1 Dolby Digital、Filmmakers' Commentary、Party Along Commentaryの5トラックが割り当てられている。消去シーンや没になったエンディングにも、オリジナル音声と共に音声解説が収録されている丁寧な作りには好感が持てた。