All That Heaven Allows: Special Edition (1955)
(天はすべて許し給う）

＜作品データ＞
リージョン： ALL
制作： Criterion
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital Mono (English)
作品時間： 89分
画面比率： 1.77:1
CC： No
字幕： English

郊外の裕福な家で暮らす未亡人（ジェーン・ワイマン）。彼女の庭木を管理する青年（ロック・ハドソン）。さり気ない出会いから、身分、年齢、価値観の異なる男女の恋愛が静かに開始する。秋の紅葉から冬の雪景色へと季節が移ろうに従い、二人の関係も進展していくのだが、それとは対照的に、彼らの周囲には非難と嘲笑の空気がつのる。息子と娘の反対、ゴシップ好きの隣人たちによる容喙に、女はいったん再婚を踏みとどまるのだが……。

典型的なメロドラマの筋立てをなぞりながらも、映画そのものは典雅な輝きを放っているのは、ひとえにダグラス・サーク監督の繊細かつ大胆な演出によるものだ。それは、彼の経歴に深く関わっている。ダグラス・サークは1895年ドイツ生まれ（1900年デンマーク生まれという説もあるが、本人はドイツ生れと明言している）。舞台監督から映画の世界に転じ、30年代からドイツの映画スタジオ、ウーファで活躍するが、妻がユダヤ人であるという理由からアメリカに亡命。ユニヴァーサルのプロデューサー、ロス・ハンターと組んで様々なジャンルの映画を手がけた。ハリウッドに移った後も、彼のドイツ時代における映画的（演劇的）な素養が演出のエッセンスとなっていることは確かだ。

サークの演出については、まず、鏡、ピアノの譜面立て、あるいはテレヴィのブラウン管といった「反射物」に人物を配置することで、ありきたりな切り返しを排し、重層的に画面を構成していることに注目したい。未亡人ケリーが世界に絡め取られていることを、こういった繊細な画面で視覚的に表現しているのだ。一方、照明、舞台装置、衣装の色彩を極度に際立たせ、「いかにもセットらしいセット」であるかのように見せる大胆さもある。これはもともと絵画の素養を持ち、舞台監督出身であるサークの感性であろう。セットの人工性を見る者に強烈に意識させることで、観客と物語との間にスリリングな距離感を生み出しているのだ。ハドソンがワイマンのために改築する古い水車小屋の内部が好例である。大きな窓辺でハドソンがワイマンに愛を語りかけるシーンでの絵画のような美しさ。それから、ワイマンの娘（グロリア・タルボット）の部屋――ステンドグラスから射す光が異様に美しい――に目を凝らしてみてほしい。

本作は、トッド・ヘインズ監督 "Far From Heaven" （『エデンより彼方に』）の下敷きとなった作品でもある。『エデン』の紅葉の美しさ、ブルーを基調とした夜の照明の当て方には、本作からの影響を見受けられる。しかしとりわけ、冒頭で教会の尖塔を手前に配した街の俯瞰ショットからカメラがゆっくりとパンし、どこからともなく自動車がスルスルと画面の中を走り込んでくるあたりの演出の呼吸には、サークへのオマージュがもっとも感じられるはずだ。

DVDのメイン・タイトル画面は、物語でも重要なポイントになる水車小屋の窓越しに数々のシーンが映し出されるという趣向になっている。しばしば窓越しに人物を配置させたサークに対する、DVD制作者たちの敬意が感じられる。

特別収録では、サークを敬愛するドイツの映画監督、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが1971年に書いた"Imitations Of Life"（「イミテーション・オヴ・ライフ」）（英語）を、当時のスチールと併せて読むことができる。これは本作を含め6本のサーク作品（『風と共に散る』『間奏曲』『翼に賭ける命』『愛する時と死する時』『悲しみは空の彼方に』）についての卓抜なサーク論である。そして『天は〜』のスチール写真多数。もちろん、公開時の予告編も収録。またリーフレットで、映画研究家ローラ・マルヴィによる解説も同封されている（ただし、これはクライテリオン社のウェブサイトでも公開している）。

しかし何といっても最大の特典は、1979年のBBCテレビでのサーク自身のインタヴュー"Behind The Mirror"(「鏡の背後で――ダグラス・サークの横顔」)である。サークは、ドイツでの監督生活、亡命、アメリカへの移住、数々の作品のエピソード、そしてスイスでの余生について31分にわたり淡々と語ってくれる（パッケージには1時間と書いてあるがこれは間違い）。映画の原作について、彼は「貧弱な物語(poor story)ではあったが、興味があった」と述懐する。なぜなら、サークはこの作品で初めて、鏡や象徴といったものに対する独自の理念を取り込むことができたからだと言う。英語字幕はついていないが、サークは終始落ち着いたテンポで質問に応答しているので、ヒアリングに自信のない人でも繰り返し耳を傾けるうちに聞き取れるようになるだろう。なおここでの内容全体は、フェイバー＆フェイバー社から刊行されている『サークによるサーク(Sirk on Sirk)』で語られていることに対応しているので、さらに興味のある方はそちらを参照するのもいいだろう。

スクイーズ収録によるヴィスタ・サイズ画面 (16:9)。50年代のアメリカ映画の映像水準の高さに驚かされる。しかしながらテクニカラー映像の真価とは、単に絵葉書的な美しさばかりではなく、アグネス・ムーアヘッドの強烈な赤毛と化粧など見られるように、人物の醜さをも極端なまでに引き出してしまうものなのではないかと思う。それほどまでにここでの修復は力がこもっていると言うべきだろう。

ロングショットで捉えた水車小屋の映像に多少粗さが感じられることを含め、屋外遠景ショットにおいて、やや画質に不安を憶えないでもない。しかし室内シーン色調のバランスは素晴らしい。暖色系（オレンジ）から寒色系（ブルー）のライトを巧みに組み合わせたラッセル・メティによるキャメラを思う存分堪能できる。画面のチリが皆無とは言いきれないが、まったく気にならない程度。

字幕は英語字幕を収録。

ドルビー・デジタル・モノラル収録。現今の映画にくらべれば音響による立体感はないがそれは仕方のないことだ。収録された音声について問題ないことは確か。フランク・スキナーによるピアノと弦楽器を織り交ぜたサントラは鮮明に聞ける。ロック・ハドソンの、あの深い声の響きもノイズなく耳を打つことだろう。