The  Spirit Of The Beehive: Criterion Collection
(ミツバチのささやき）

作品データ
リージョン：1
制作： Criterion
映像仕様： LBX
音声仕様： Dolby Digital Mono (Spanish)
作品時間： 99分
画面比率： 1.66:1
CC： No
字幕： English

内戦が終わった1940年頃のスペイン。カスティーリャ高原の小さな村に、「フランケンシュタイン」のフィルムを運ぶ一台の移動巡回映写トラックが到着した。映画の上映会に湧く村人たち。観客の中には6才のアナ（アナ・トレント）と姉のイザベル（イザベル・テリェリア）がいた。アナは、怪物フランケンシュタインと少女が水辺で出会う美しいシーンを食い入るように見つめていた。
その頃、父親のフェルナンド（フェルナンド・フェルナン・ゴメス）は、養蜂場でひとりミツバチの研究に没頭していた。母親のテレサ（テレサ・ジンペラ）は、外国に宛てた手紙を書き終えると、それを列車の郵便ポストに投函するため自転車で駅に向かった。
その夜、ベッドの中でアナはイザベルにフランケンシュタインが殺された理由を尋ねるが、イザベルは怪人は死んでいないと話す。そして、村外れにある廃屋には精霊がいて、目を閉じて呼び掛ければいつでも話ができると言う。
翌日、二人は学校帰りにその廃屋を訪れる。それ以来、アナは一人でたびたびそこに行くようになった。そしてある出来事が起きる・・・。

スペインのビクトル・エリセ監督による1973年作「ミツバチのささやき」。アメリカでは忘れ去れていた本作がクライテリオンによって見事に息を吹き返した。日本では1985年に公開され、静かな人気を呼んで以来、本作をこよなく愛するファンに熱く語り継がれている名作だ。

「ミツバチのささやき」は、内戦の暗い影が残るスペインの高地に広がる自然を背景に、純真無垢な少女の姿を詩的な語り口とノスタルジックな映像美で描いている。フランケンシュタインが幻想であることを理解していないアナは、現実と虚構の区別が付くようになる一歩手前、大人の世界への通過点に立っている。まっすぐに見つめるアナの眼差しは純粋そのものの清々しさで、子供の頃の感覚が鮮烈に蘇ってくるかのようだ。その少女を演じているのは当時6才のアナ・トレント。特典映像で監督がアナとの運命的な出会いについて語っている部分があるが、「フランケンシュタインって知っている？」と監督が尋ねると、アナは「はい。でもまだきちんと紹介してもらっていないの」と答えたと言う。本作で鮮烈な印象を残したアナ・トレント抜きにして本作の成功はありえなかったのだ。
そして、エリセ監督の繊細な感性によるスペインの情景は、いつまでも忘れられない美しさがある。広い草原にぽつりと佇む廃屋を丘の上から眺め、次第に小さくなってゆく姉妹の姿を捉えたカット。線路に耳を当てて列車の音を聞く幼い姉妹。蜂の巣模様の入った窓から漏れる淡い光の微妙な色使い。それらは、観る者によっては違った意味を見出すこともある。ワンカット毎にフランコ独裁政権後の新しい世界への暗示がちりばめられていると解釈する者もいれば、象徴的なラストシーンを導く一つ一つのエピソードに秘められた意味を分析する人もいる。後になっていろいろな想いを巡らせ、取り憑かれてしまう特別な何かを持った作品なのだ。

本作は日本では2000年にDVD化されているが、廃盤のため今では中古盤でも価格が高騰したレア・アイテムになっている。イギリスPAL盤が2003年に発売されているが、こちらは特典収録のない通常盤である。それだけに米国盤は待望リリースとなった。特に今回のクライテリオン盤には、日本盤「ミツバチのささやき / エル・スール ボーナス・ディスク付き スペシャルボックス」（こちらも既に廃盤）に収録されていたエリセ監督インタビューが含まれていることでも価値は高いが、加えて映画の舞台となったオユエロス村を訪ねるドキュメンタリーも収録されており、本作をDVDで所有しておきたいファンには欠かせない一本だ。

クライテリオン・レーベルの中でもひときわ繊細なデザインと色使いのパッケージ内には、デジパックに収められた2枚のディスクと10ページのブックレットを収録。ディスク#1は本編のみ。映像はオリジナル画面比率の1.66:1アナモルフィック、音声はスペイン語モノ、英語字幕を収録。映像はデジタルリマスター済みで、傷やチリは皆無の美しい高画質。画面は明るく、暗部までクリアーで情報量が豊富。淡い太陽の下での微妙な色彩が印象的な映像だが、カラー調整が加えられているため、UK盤とは色味が異なる。スペイン語モノ音声のサウンドトラックも欠点のない良質な音を届ける。クリアーなセリフはまっすぐに響いてくる。

ディスク#2には、4つの特典映像を収録。

The footprints of a Spirit（48分）
映画の舞台となったオユエロス村を訪ねて作品のテーマを振り返るドキュメンタリー。映画で登場した建物に村の住民たちが集まり、「ミツバチのささやき」の上映会が行われるところから始まる。アナたちの住まいとして使われた家もほぼ当時のまま残っていて、アナ・トレントがそこを訪れて当時を回想する。ほかにエリセ監督、プロデューサーのエリアス・クェレヘタ、共同脚本のアンヘル・フェルナンデス＝サントスへのインタビューを織り込みながら、当時の面影を残すオユエロス村の映像を綴る。スペイン語音声、英語字幕。

Victor Erice in Madrid（49分）
2000年に撮影された、映画作家・宮岡秀行によるエリセ監督へのインタビュー映像「Victor Erice in Madrid 〜カフェ・オリエンタルで語る」の改訂版。監督とアナ・トレントとの出会いのエピソードや、溝口健二ら日本の映画監督からの影響、同監督作「エル・スール」についてなど映画制作に関する内容。一部日本語のテロップがそのまま残っている。スペイン語音声、エリセ監督監修による英語字幕。

Fernando Ferman Gomez（10分）
本DVD用に2006年撮影された、父親役のフェルナンド・フェルナン・ゴメスへのインタビュー。出演するきっかけから、本作の魅力について独自の想いを語る。スペイン語音声、英語字幕。

Linda C. Ehrlich（15分）
映画研究家のリンダ・エールリッヒへのインタビュー。本作の映画としての評価について語る。本DVD用に2006年撮影された。英語音声、字幕は無し。

また、付属のブックレットには、チャプターリスト、キャスト、スタッフ一覧に続いてケンブリッジ大学のスペイン語教授ポール・ジュリアン・スミスによるエッセイ（英語）を収録。

リージョンは北米向けのリージョン1限定のため要注意。

2006/10/24