The Sun (Solntse) (PAL-UK) (太陽)
作品データ リージョン:2 制作: Artifical Eye Film Company 映像仕様: LBX 音声仕様: Dolby Digital Stereo (English) 作品時間: 115分 画面比率: 1.85:1 CC: No 字幕: English
1945年、終戦間際の日本。皇居地下にある防空壕で日々を過ごす昭和天皇の一日は、儀式のような食事の時間から始まる。 一日のスケジュールを伝える侍従長に、昭和天皇はゆっくりした口調で問う。 「もしここに米軍が来たら日程はどうなるのかな?」「最後に残る日本人は私だけであるということには、ならないかね?」 「お上が人間であるかもしれないとお思いになること自体が、思い過ごしでございましょう」と、震える声で答える侍従長。 「私の体は同じだよ、君のとね。神が持つものは何も持たない。皮膚にさえ何の印もない・・・まあ良かろう。怒るな。まあいわば、冗談だ。」 御前会議の時間。陸相は本土決戦を主張するが、昭和天皇は明治天皇の歌を詠み、平和を願う意志を伝える。無言で聞き入っていた軍首脳たちを残して、天皇は会議の場を去る。 海洋生物の研究の時間。ヘイケガニの標本を手にして「なんという奇跡。なんという神々しい美しさ!」と好奇心に満ちあふれる昭和天皇。しばらくして居眠りを始めた記録係に向かって、突然、「書いてください!」と迫り、大東亜戦争開始の原因について語り出す。 午睡の時間。昭和天皇は東京大空襲の悪夢を見る。 やがて眠りから覚めても、夢の続きを見ているかのようにいつの間にか時間は経過している。そして、連合国占領軍総司令官ダグラス・マッカーサーとの会見の日を迎える・・・。 ロシアのアレクサンドロ・ソクーロフが、「モレク神」のヒトラー、「牡牛座」のレーニンに続き、歴史上の傑出した人物をテーマにした4部作のうちの一本。ロシアでは第13回サンクトペテルブルク国際映画祭でグランプリを受賞した。昭和天皇を演じているのはイッセー尾形。天皇の苦悩のすべてを母性で包み込んでしまうような皇后を桃井かおり、侍従長を佐野史郎が演じている。 日本における権力は「静かで、曖昧であり、奥深く、抑圧されている」とソクーロフが言っている通り、本作では権力の象徴である昭和天皇は終始淡々としている。そして「人間としての資質はいかなる歴史的状況よりも高尚」だという考えを証明するかのように、昭和天皇のどういう人間性が終戦を導き、人間宣言に至り、そして歴史的決断をさせるほどの強い印象をマッカーサーに与えたのか、その一つの答えを探ろうとしたのが本作だ。 綿密なリサーチと研究に裏付けられた天皇の人物描写は欧米の映画評論家も高く評価しており、しばしばオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の「ヒトラー 最期の12日間」と比較されているが、神として存在していた昭和天皇と独裁者ヒトラーとでは人間描写が本質的に異なってくるのは明らかだ。さらに重要な鍵を握るマッカーサーとの対面では、その時に交わされた会話の内容は現在も明らかにされていない。にも関わらず、天皇の性格を的確に見出したと思わせる会話と行動を具体化した、イッセー尾形との素晴らしいコラボレーションを見ることができる。明確なビジョンを持ったソクーロフと、それを淡々と的確に表現したイッセー尾形によって生まれた名シーンと言えるだろう。話す時にパクパク口を動かす独特のしぐさや全身の身のこなし方は、ともすれば似すぎている印象を与え笑いを取ってしまうものだが、本作でのイッセー尾形は得意の形態模写から一歩離れ、自身の個性を残したままより客観的な演技を披露している。 社会的タブーとされ、日本映画ですらほとんど描かれてこなかった昭和天皇。その昭和天皇を主人公にしているというだけで日本で様々な物議を醸し出すことは明らかだが、それを踏まえた上で昭和天皇の内面的葛藤を描き、その「人間性」に迫った本作は歴史的にも重要な意味を持つことになるかもしれない。 日本人にとっては間違いなく衝撃的であり、あるシーンでは深く納得させられ、またある場面では安堵の念を抱くといった複雑な感情が沸き起こるだろう。すべての人に是非観て欲しい一本である。 そのデリケートなテーマから本作は日本での公開は不可能ではないかと言われてきたが、2006年8月、遂に日本公開が実現した。アメリカではソクーロフ作品が劇場公開されることは稀で、本作も2005年のニューヨーク映画祭など映画祭での上映のみに留まっている。一方、イギリスでは2005年に劇場公開され、2006年2月にはいち早くDVD化されている。 DVD画質についての評価は、オリジナルフィルムがデジタルビデオカメラで撮影されており、特殊な色彩効果処理が加えられていることもあって容易ではない。散見されるチリ類や輪郭の弱さ、色にじみは改善の余地があるだろう。グレインの多さ、イメージのかすみ具合やソフト感、不自然な色彩は本作の映像スタイルであり、夢の記憶をぼんやりと思い出しているかのような視覚効果がある。 音声は日本語2.0サラウンドと英語2.0サラウンドを収録。ソクーロフの繊細な音作りを最大限に再現するには5.1chミックスが必要と思われる。セリフは湿っているが聞き取りには全く問題ない。 字幕は英語字幕を収録しているが、日本語の会話部分のみであり、英語での会話の部分には字幕収録はない。字幕はON/OFF切り替えが可能。 本編以外の収録としては、ロシア版劇場予告編、プロダクション・ノート(ソクーロフ監督のコメント、英語テキストのみ)、ソクーロフのフィルモグラフィーを収録。 なお本DVDのリージョンは日本同様リージョン2だが、PAL盤の視聴には特別な再生環境が必要となるので要注意。(PAL盤の再生方法については、PAL Special Selectionsを参照)
2006/08/08
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